宇宙偶成二　　『自然遍在空』として        

冥海岸帷儂筏沖　　冥(くら)き海　岸には帷(とばり)　儂(わし)と筏(いかだ)はおだやかだ

漣重面躍水紋融　　漣(ざなみ)重なり　面(おもて)は躍(おど)り　水紋融(と)け

自然景物顕真意　　自然(しぜん)　景物(けいぶつ)　真意を顕(あら)わす

大塊微塵遍在空　　大塊(たいかい)　微塵(びじん)　空(くう)に遍在(へんざい)

【通釈】

日がくれて、海はくらくなり、岸の家々にとばりがおりると、私といかだはおだやかに漕ぎ出ている。

さざ波が重なり水面がおどりだすと、いろいろな形の模様がとけて消えていく。

そして、その時々の景色も物質界の現象も、本当の姿と真意をあらわしてくる。

大きな天地や自然も、宇宙を構成する極めて小さな原子などの物体も、何もないように見える空間に、あまねくすみずみまで行き渡って存在しているのだろう。

【語釈】

帷　＝　とばり。たれぎぬ。カーテン。

儂　＝　わし、われ、おれ。自分の意の俗語。

沖　＝　性格や態度がおだやかである。やわらぐ（和）。

水紋融＝　水面に浮かぶいろいろな形の波模様の境目がとけてなくなる。

自然＝　物質界とその現象。ものの本来の性質、本質。人為の加わらない本来のまま。

景物＝　その時々の風物。ながめ、景色。

真意＝　本当の道理。自然と一体になった時に得られる真精神。まことの心。

大塊＝　たいかい。地をいう、大地。天地・自然・造物主をいう。

微塵＝　非常に小さいこと。分子･原子･量子などの物質を構成する極めて小さな物体。

遍在＝　へんざい。あまねく、広くすみずみまで行き渡って存在する。

空　＝　宇宙。空中。からっぽ。

素愚　　南部　栄司　　（東韻）

令和二年五月三十一日　20.06.06