経験知・暗黙知(ディープスマート)を考える   H1216a+

(参照)「「経験知」を伝える技術(ディープスマートの本質)」 D・レオナード、W・スワップ著

 

□「経験知・暗黙知」とは

暗黙知(Tacit Knowledge)」とは、「言葉で鋭明できない知織」である。
「できるのに説明できない」、「分かっているのにうまく言えない」知織が暗黙知と言われるものだ。

マイケル・ポラニーは、言葉では説明できないが、理解して使っている知織があることに気付き、「暗黙知」と名付けた。
暗黙知は、我々が経験を通して獲得した知織であり、暗黙知は「経験知(Experiential Knowledge)」とも言い換えられる。

暗黙知と対比されるのは、「形式知」であり、これは言葉で説明できる知織である。

では経験知とは何か、なぜそれは言葉では説明できないのかというと、経験知の「知」は、形式知の「知」とは異なっている。 経験知は、我々の体験と密接に結びついている。
例えば、ボイラーのあちらこちらをハンマーで叩き、その時の音の違いで故障を診断できる人がいる。ハンマーで叩いてから診断結果が出るまでに論理学の三段論法のような規則と事実を積み重ねていく推論を経ることなく、瞬時に答えは出る。

「経験知」とは、体験の良質な部分がいわば結晶化したものであり、形式知を経由しないで、それ自身で答えを出すことができる、独立した”知”の様式である。

 

「ディープスマート」

その人の直接の経験に立脚し、暗黙の知識に基づく洞察を生み出し、その人の信念と社会的影響により形づくられる強力な専門知識のこと。数ある知恵のなかで最も深い知恵だろう。
個々の情報より「ノウハウ」に基礎をおくもので、複雑な相関関係やシステム全体の把握に基づく専門的な判断を迅速に下し、必要に応じてシステムの細部にも踏み込んで把握できる能力。

〇なぜ、ディープスマートが重要なのか
ここでは、組織とマネージャー個人に大きな優位をもたらす知識を「ディープスマート」と呼ぶ。
必要なのはあくまでも、ディープスマートを備えた人材だ。IQが高いだけの人間はいらない。

経営学者のPドラッカーは40年以上前に、「知識によってはじめて、企業は他を抜きんでて、市場で価値のあるものを生み出せる」と言っている。

〇経験はどのようにディープスマートを築くのか?

ディープスマートを持っているかどうかは、大量に情報の海の中からパターンを見出す能力があるかどうかでわかる。このパターン認識能力を築くうえで中心的な役割を果たすのが“経験”だ。
すなわち、長年の経験を通じて築かれて、人間とその脳ミソにしか蓄えられていない知識だ。
・経験のレパートリー(ある状況で使える経験のメニュー)を増やす
・実践を通じて学ぶ
・起業の経験から学ぶ
・安全に失敗するという方法

 

※参考として、

「ディープスマート」とは、経験に土台を置く専門知識のことだが。
「ディープスマート力」とは、フレームワークを超えて、ある分野における長年の経験(知識/実体験)に基づき、時間をかけて私達の中に暗黙知(経験知)をためて、新しい洞察が出来るようになることだ。~勝間和代による

*例えば、システム開発・プロジェクトでは、  <N’s Memo>
経験の足りない人間がプロジェクトを動かすと何が最悪かと言えば、一度ミスをしただけでミッションが失敗に終わるということ。

 

企業の財産とは
企業に最後まで残るものは、技術、特許、会社に埋め込まれた基本的価値観(知的財産)だ。

 

知識の暗黙の側面

知識とは、「有意義で、行動の指針になり、少なくとも一部は経験に基づく情報」と定義できる。
知識は常に、言葉で表現しにくい部分がある。知識の専門性と抽象性が高まると、知識の暗黙の側面が強くなる。積み重ねた経験から突然生まれるパターン認識と直感は、言葉で説明できない場合が多い。
「超感覚的知覚」ないし「第六感」と言われることもある。

 

『直感』
直感とは、経験に基づく効率的で迅速なパターン認識といえる。

 

〇「エキスパート (ディープスマートの持ち主)」
エキスパートはただ知識の量が多いだけでなく、知識の活用の仕方が凡人とは違う。
エキスパートは、幅広い経験のレパートリーがあり、ある状況を前にすると、見覚えのあるパターンを見つけ出して、それを過去の経験と照らし合わせ、目下の状況にぴったり合った判断を下す。
ということは・・・
・抽象化された知識を持っており、過去に遭遇したことのない状況に出くわした場合も、大きなカテゴリーに属する一種と考えて結果を予測できる。
・初心者が見落とす細かな差異にも気がつく
・初心者よりも自分の知識の守備範囲をよく心得ているので、特異な場面に遭遇した時に気づきやすい

*エキスパートと初心者の違い ・・・エキスパートは、
・ワナに気付く、・迅速に意思決定をおこなう、・具体的状況を認識をおこなう、・推測する、・微妙な区別ができる、・自分の知識の欠落や例外的状況によく気づく

◎エキスパートはなぜ、そんなことができるのか?
エキスパートは、初心者より少ない情報で判断を下せるだけでなく、さまざまな状況に対応し、先の展開を予測し、初心者にはわからない微妙な違いを識別し、経験から一般ルールを引き出し、ルールが当てはまらない場面を見分けられる。

 

『信念』
信念は知識であり、知識は信念であるが、知識は決して客観的なものではない。
私たちが“知っている”と思っていることの内容は、各自の世界観に左右される。個人的、専門的、組織的、文化的な思考体系の影響を強く受けるもので、信念がディープスマートを形づくるといえる。

信念は知識と同様、経験を積んだり、周囲の人々から影響を受けたりしながら、時間を経て蓄積されていく。
信念はたいてい暗黙のもので、本人がそれに疑問を差し挟むことはない。ある人が何を事実として受け入れるかは、信念に左右されるという点にある。強固な信念は、私たちの世界観を屈折させるレンズだ。個人の信念は、他人の知識(ディープスマート)を受け入れる際のフィルターとして機能する。

*信念の中核性(3つの要素)
・アイデンティティや自意識との結びつき(アイデンティティや自意識そのものも、性別、家庭環境、身体的特徴、性格、教育、組織の創設者の信念や草創期の決定などの産物だ)
・直接の体験の有無
・周囲の人たち、特に尊敬している人の支持

 

〇ディープスマートを移転させたければ、
・知識を受け取る側がどのような信念を持っているのかを知っておく必要がある。
・同時に、自分自身がどういう信念を持っているかも知っておかなくてはならない。

〇信念は変わるのか?
中核的信念、すなわち直接の経験に基づいていて、個人や組織のアイデンティティと結びついている信念は、極めて強靭で、変化しにくい。このような信念は、その人のディープスマートの一部をなしている。

 

◎知識移転
経験知はいかにして人から人へと伝えられていくのか。専門知識の移転は、最も重要な問題である。
・経験則
エキスパートはしばしば、経験則という形でメッセージを伝えようとする。
経験則とは要するに、様々なパターンを抽象化して、覚えやすく簡潔な(ほゞ信頼できる)ルールにまとめたものだ。
・体験談
過去の経験を話して聞かせる方法も、教訓を伝えるうえで有効な場合がある。体験談は、なかなか忘れにくいからだ。

 

□プロフェッショナル化

*(経験知/暗黙知)知識移転による人材教育 ・・・ 知識の空洞化を避けるための対策
・プロフェッショナルがリタイヤーしていく中でも ・・・団塊の世代以降
・プロフェッショナルが身近にいれば、周辺のメンバーは背中を見て育つ
・知識で理解するのみでなく実践して体験すること

*プロフェッショナルとして
・価値観やマインドが大事
・人と人の交流による創造活動が大事である
・実践知識(経験知や暗黙知)を仕組みにしていくことが大事
・継続して続けていくことが必要・・・そういう企業が持続的に成長する

*本当のプロフェッショナルの共通項
・時代の変化を捉える先見性がある
・新しい事業を自分のコンセプトで創出できる
・誰とでもつきあっていける柔軟性がある
・粘り強く継続できる(育てる)才能を持っている
・自分の社会的存在価値を基準にしてやりぬける

 

『勘』(=直観力?)  <N’s Memo>~考察

一瞬で、未来におこることの全体像(イメージ)が見えることがある。
なぜ、そのようなことが出来るのだろうか?
それは、間違いではなく、実際に結果としてその通りに現実として表出してくることが多い。

私は、「勘」と言っているが、100%とはいえないまでも正しい答えが導かれていると思う。
なぜ、勘は間違うことがないのか、不思議なことだ。
人間の脳が無意識レベルや異次元(あの世、虚の世界)と交信しているのかもしれない。
脳に蓄積された全情報を、瞬時に検索し結びつけ繋げるという情報処理をしてしまっているのだろう。

勘は、年齢とともに衰えることなく、鋭く(正しく)なるということは、暗黙知/経験知というものと同じものなのだろうか。
⇒ 私の経験から言うと、結果として「勘」は正しいと考えればいい。それをもとに行動もしていると思う。

 

〇「虫が知らせる、虫が好かない」 (動物的な勘?)  <N’s Memo>
知識に加えて、感覚も磨けば磨くほど、ものごとの真価に近づく。
「虫が知らせる、虫が好かない」という動物的な勘を大切にすれば、危険やトラブルを事前に察知して、上手に避けることが出来るのだろう。

〇アナログで物事を“とらえる(考える)”ということは、  <N’s Memo>~考察
細かい内容は別にして考えると、物事の全体をイメージして、方向性や、大きな問題点などをつかむということは、脳がアナログ処理されているのだろう。膨大な情報を、瞬時に処理する場合には、デジタル処理では時間がかかりすぎてしまうのだと思う。
また、文字情報などのデジタル情報ではなく、図・絵・音・イメージなどの情報は、脳ではどのように扱われているのだろうか。人間の思考方法も、アナログ型(イメージ処理系)とデジタル型(言語処理系)があり、個人個人によって異なっているのだろう。
私自身は、アナログ型の典型的人間ではないかと思えてしかたがない。

先ほどの 「勘(直観力)」とは、その人の全能力(経験/知識などを集大成・統合化・要約化されたもの)であり、一瞬で引き出せるものになっているのだろう。・・・これもアナログ処理と言えるものだろう

☞ 直観は過たないが~

〇カタストロフィー的生成・発展   <N’s Memo>
ものごとはカタストロフィー的(不連続)に生成・発展するのだろう。
何事もリニア―(線形)に成り立っているのではなくて、予測できない不連続点の大きな変化の中で捉えなければならないのだろう。