独往偶成
獨往偶成 (どくおうぐうせい)
獨往十年詩酒娯 独往(どくおう)十年(じゅうねん) 詩酒(ししゅ)の娯(たの)しみ
餘生多恨老江湖 余生(よせい)多恨(たこん) 江湖(こうこ)に老(お)ゆ
癡心半世光陰早 痴心(ちしん)半世(はんせい) 光陰(こういん)早し
守拙持頑天性愚 拙(せつ)を守(まも)り 頑(がん)を持(じ)す 天性(てんせい)の愚(ぐ)
【通釈】
ひとりきままに、漢詩と酒(ビール)をたのしみに生きてきて十年になる。
残りの人生はくやむこともたくさんあるが、美しい自然の中で静かに暮らしたい。
愚かでまぬけな心が抜けきらなかった半生は、時間のたつのが早かった。
世渡り下手で、融通のきかない頑固なおろかさは、生まれつきのものだからしようがない。
【語訳】
独往= ただひとりで行く。
十年= (会社を終えてから…)
余生= 余りの人生。
多恨= 多くのうらみ、くやみ。
「恨」は、自分に対して心に残り残念に思う。
江湖= 川とみずうみ。都会から離れた隠棲の地。
痴心= おろかな、まぬけな心。
半世= 一生の半分(半生)。半生涯。
光陰早= 時間のたつのが早い。
守拙= 世渡りのへたな自分の性質を守って、しいてうまく立ち回ろうとしないこと。
持頑= かたく-な。頭が古くさく、融通がきかない。頑固で押しが強い。にぶい。
天性= 生まれつき。
愚= おろかさ。
素愚 南部栄司 (虞韻)
平成三十一年八月三十日