「老いと死から逃げない生き方」 14.09.01 講演会資料より H0907b
・・・ 社会福祉法人老人ホーム「同和園」付属診療所所長 (医師) 中村 仁一
● 「年のせい」を認め、ムダな抵抗はしない
● 「明日死んでも後悔しない」生き方を心がける
● 確かなものは「今」しかない
◎「還り(かえり)」の生き方の基本
「老い」には寄り添い、「病」には連れ添う。
「健康」には振り回されず、「医療」は限定利用を心がけ、「死」には妙に杭(あらが)わない。
◎繁殖を終えて生き物としての賞味期限は切れたが、人間として果たさなくてはいけない大事な役割が2つ残っている。
・いろいろな不具合と上手に折り合いをつけて生きる「老いる姿」を見せること
・できるだけ自然に死んでみせること ・・・ 「死にゆく姿」を見せることは最高の「遺産」
1.「医療」に対する重大な「誤解」と「錯覚」がある
※病気やけがは、医者や薬が治してくれると思っている。
※どんな状態でも病院へ行きさえすれば何とかなると思っている。
1) 本人に治せないものが、他人の医者に治せるはずがない!
* 病気やけがを治す主役は、本人の「自然治癒力」
医療者はお助けマン、薬はお助け物質、器械はお助けマシ-ン
* 医療は、本人の身体の反応を利用するもの
2) 発熱、咳、嘔吐、下痢、痛みなどの症状には意味がある
3) 医療には、「不確実性」と「限界」がある ・・・ 「老い」と「死」には無力
・結果は、やってみないとどうなるか分からない・・・賭け。
極論すれば「医療」はいのち(命)を担保にした『バクチ』である
・年を取ったものを若返らすことも、死ぬのを止めることもできない
4) 医療には、目標(ゴール)がなくてはいけない
・回復の見込み
・生活の中身(Q・O・L)の向上の可能性
5) エビデンス(科学的証拠)
・統計的事実だが、そのまま目の前の患者にあてはめられない
・絶対リスク減少を相対リスク減少に置き変えて患者恫喝の手段として活用されることが多い
6) 主権在患(原則として患者の許可が必要)
・医療には「傷害行為」や「強制ワイセツ行為」を伴う
7) 患者の「最善」と、医療者のめざす「最善」は異なる
・患者は、自分の「生き方」「生活背景」「年齢」などを考えた「最善」の範囲内で、医療者に対してプロとしての「最善」を尽 くすことを求めればいい
2.「医療」と「介護」が“穏やかな死”の邪魔をする
1) 守るべき鉄則
・死にゆく自然の過程を邪魔しない
・死にゆく人間に無用な苦痛を与えない
2) 本来、自然な死は安らかで穏やかなもの
食べないから死ぬんじゃないよ、「死に時」が来たから食べないんだよ。
従って、腹は減らないし、のども?かない
① 自然死の実態 ・・・ いわゆる“餓死”
・飢餓 ・・・ 脳内モルヒネの分泌
・脱水 ・・・ 意識レベルの低下
・酸欠状態 ・・・ 脳内モルヒネの分泌
・炭酸ガスの貯溜 ・・・ 麻酔作用
*「死」は、心地よいまどろみの中でのこの世からあの世への移行
*「同和園」では、1滴の水も口から入らなくなって亡くなるまで7日~10日
*強制人工栄養、点滴注射、酸素吸入などは邪魔立てとなる
② 介護の“拷問”
・無理無体にロの中へ食べ物を押し込む
・無理に食べさせた挙句の吸引
・死ぬ当日まで風呂につける (生前湯灌)
・2時間ごとの体位変換
3.「老い」にはこだわらず寄り添う
* 年寄りはどこか具合が悪いのが正常
* 「老い」を「病」にすり変えない
* 「もう・・・、しかできない」か「まだ・・・もできる」か
※「欠けた歯を惜しまず、残った歯を喜び、抜けた頭髪を憂えずまだ生えている髪を数える」精神
4.「健康」には振り回されない
* 健康のためなら命もいらない
・年寄りにはすごい”健康圧力” ”若さ圧力“がかかっている
・健康は人生を豊かに生きる「手段」であり、「目的」ではない
* 「検診」や「人間ドック」は”健康づくり”には役立たない
5.「病」にはとらわれず連れ添う
* 生活習慣病に完治はない ・・・ 一病息災、病気と共存、闘病はよくない
* 癌(がん)も老化 ・・・ 繁殖を終えていれば『手遅れの幸せ』もある
※発見された時点で、手遅れで痛みのないがんは、その後何の手出しもしなければ最後まで痛まない
※抗がん剤の(効く)とは ・・・ がんが消えてなくなることではない
6.「死」には妙に抗(あがら)わない
「医療」は所證「老いて死ぬ」という枠内のもの。
したがって、年寄りは「再生医療」や「最先端医療」には近寄らない方がいい。
7.看取る側、看取られる側(看取らせる側)の心構え、覚悟
* 自分でできることは甘えずに精いっぱい行う
* 「孤独死」を怖がらない ・・・ 死に方としては理想的
* 死に際は、容態が急変するもの ・・・ 見守る覚悟
* 臨終の場面に医者が立ちあう必要がない
8.「死を視野」に入れる
* 「死」を切り離し『生』のみ謳歌、結果『生』までおかしくなった。
* 甘味を増すには塩が必要なように、『生』を充実させるためには「死の助け」がいる。
1) 「死を視野に」入れて生きる ・・・ 看取られる側(看取らせる側〉
・繁殖を終えた早い時期に、人生の棚卸しをする
・「余命6力月と言われたら」 エクササイズ
・周囲と「自分の死」について話し合う
2) 延命に走らないための看取る側の“心得”
* 「死を視野に」入れて関わる
・「余命6ヶ月と言われたら」 エクササイズ
・「お通夜」 エクササイズ
・事あるごとに「死に方_」の真意を探る
* 「医療」に過度の期待は抱かない
・「できるだけの手を尽くす」は「できる限り苦しめる」と同義
・死ぬべき時期にきちんと死なせてあげるのが家族の“真の愛情“
「死に方」は「生き方」、人は生きてきたように死ぬ
・・・「今日」は「昨日」のつづき、「昨日」と全く異なる「今日」はない。
「今」が大事
・・・点検・修正を繰り返しながら、その日まで生き切りましよう。